I'm starting on this part, so I'll put the RAW.
This sums up to page 49 of the novel, rougly a 10% of the work. (I think were going fast!)
*Satomi is at her part time job as a watchman(watchwoman¿?)(she has two works because of her raising expenses), then an intruder appears and....
P34
2
――おまえが盗ったんだろう?
――そうだ、一年中おんなじ靴ばかりはいて靴下だって破けてるじゃないか。
――おお怖い、おまえは鬼の子だよ。
――そうだそうだ。
――こっちを見るんじゃないよ、怖い眼で見るんじゃないよ。
――出ていっておくれ。あたしたちまで焼き殺す気なのかい・・・・・・
「・・・・・・ちゃん、聡美ちゃんてば!」
白髪まじりの初老男が聡美の肩を揺さぶっていた。深夜警備のパートナーである。
「あっ、ゴメンなさい。もう私の巡回時間ですか?」
聡美は椅子から跳ね起きて立ち上がった。事務机に頬杖をついたまま居眠りをしていたらし
い。
「いや、ちがうよ。まだ仮眠の時間さ・・・・・・そんなことじゃなくて、ちゃんと横んなって毛布か
ぶって寝る!」
「ああ良かった。寝過ごしたかと思っちゃった」
「何か聡美ちゃん、ここんとこ疲れてるよな。今日はオレがかわってやるからグッスリ寝ても
いいぜ」
「いいえ、いいんです。何か悪い夢見そうだから、今日は源さんの分もやります。代わりに眠
つちゃって下さい」
「オイオィ・・・・・・」
初老警備員はあきれ顔になった。
その男は、聡美の通う空手道場、旭神館の館長に武術指導を受けたことがあり、その縁で聡
美にバイトを紹介してくれた男だ。聡美の事情を知っていて、何くれとなく聡美の力になって
くれる。
聡美は日頃から彼に感謝していた。
じゅそ いふ
が、今夜のところは甘えたくないと思った。眠ったところで呪詛と嘲りと人外の者を畏怖す
る怯えた目によって、安眠はすぐに断たれるにきまっていた。
あらぬ罪で放課後まで絞られたせいで、過去の日々が夢に現われたのである。
日を覚ました聡美の顔は、そのせいでじっとり汗ばんでいるのだ。
聡美は男の手からマグライトをとりあげた。
「一回りしてきます」
P36
「わかったよ、だけど、その後ムリにでも寝かせるぞ」
いたわりの言葉にペコリと頭をさげ、聡美は暗い廊下へ出た。
何者かの気配を感じたのは、五階のオフィスの一角へさしかかった時だった。
鍛えぬいた聡美の五感でなければ、それは確実に見過ごされたはずの微かな異変であった。
身を潜融めてじっとしているネズミの吐息とdeもいえば近いだろうか。
残業届けを出し忘れてそのままソフで寝てしまった会社員なら良いが、満月の近い今の聡
美にとって、本調子でなくとも人間であることくらいはわかりきっていた。
(ちぇっ・・・…・・・コソドロか。何で私のバイトの日になんか)
思っても仕方ないことだったが、せめて通常の状態の時にしてほしかった。こんな時に刃物
を持つかもしれない侵入者がいれば、手加減するのも難儀だ。
自分も相手も無傷というのは無理かもしれない。聡美が恐れるのはそういう事態だった。
何も気取っていない風を装って、聡美は何気ない歩調で一つのデスクに近づいていく。ラィ
トは、わざとそこに向けなかった。
その代わり、強烈な闘気を叩きつけた。
デスクの上のコンピュータ、その裏側に身を沈めているかもしれない何者かへーー
聡美の研ぎ澄まされた勘はやはり誤つてはいなかった.
何者かが立ち上がると同時に、重い物体に衝撃を加える音が起こった。
コンピュータのボディがばらばらに砕けて聡美に襲いかかる。まるで手榴弾でも炸裂したか
のような有様であった。
「くっ――!
ほんの2mという至近距離で起こった異常事態。おそらく聡美でなければ死線をさまよう痛
手を負ったに違いなかった。
右体側から飛来する破片の群れ、彼女は敢えてそちらの方向へ振り向いた。
体を回す勢いを利用して右脚を蹴り上げる。
しんそく
神速の内廻し蹴りだ。
右脚の外側の部分で、大きな二、三の破片を払いとばす。
同時に、それでは払いきれない細かな破片を防いだのは、空手の十字受けであった。
バツ
聡美の顔の前で前腕部がクロスされ、強固な×の字を作っている。それが十字受けといわれ
る防御の形だ。
モニターのガラスや小さな金属部品が、聡美の頼や二の腕をかすめて血を吹きあげる。
恐るべき小爆発のさなか、聡美はそれを引きおこした黒い影を見逃さなかった。彼女が蹴り
飛ばしたコンピュータの残骸と同等の速度で、それはオフィスの壁へ跳躍していた。
そして、跳ね返った。
38
そこからさらに、聡美の後方の壁に向かって飛ぶ。
(さ、三角飛び――まさかっ!)
三角飛びとは、空手の世界で伝説とされる絶技だった。
相対した倒すべき敵とは全く別の方へ飛んでゆき、例えば木や壁を蹴って方向を変え、目標
物に攻撃を加える技である。
人間離れした脚力、全身の瞬発力・・・・・・野生動物並みのバランス感覚によって初めて可能にな
る超人的な奇襲技だ。
その襲撃者は、聡美の蹴った破片と共に飛んだ。
絶好の時を逃がさず、最高の死角と選ぶためだ。
夜日が効く今の聡美でなければ、そのカモフラージュを見抜けなかったかもしれない。
がっちりと腕を交差させた十字受けの隙間から,叩きっける危険物の向こうで動く人影を発
見したのは、幸運と修練、そして月の与えるカの賜物であった。
(女だ!)
黒い影の頭部には、豊かな髪がなびいている。
オフィスのウインドウには真円に近い蒼い月が浮かぴ、その冷たい光が長く美しい髪をきら
きらと輝かせていた。
飛び横蹴りI―
きちんと足首を返した左の足刀が、聡美の首をヘし折りにくる。
(空手家・・・・・・それも半端なレべルじゃない)
しかし、八島聡美もまた一流の空手家であった。
右上段受けで、驚異の三角飛び横蹴りを跳ね上げたのである。
凄まじい衝撃を証明する異様な音が響いた。
ずね
聡美の上腕と、敵の内脛が激突した音だ。
肉と肉――その内に包まれる骨と骨とが、互いの送り込む力に鳴き叫ぶ。
びち、
ぎち、
と、ほとんど肉ばなれに近い生々しい音だった。
聡美の首の皮一枚を切り、敵の足刀は見事上方へ弾き飛ばされた。
一つの蹴り技と一つの受け技は、大きな月を背に一瞬の交差を終・ぇた。
誰かが見ていたら、そこが小椅麗な近代的なオフィスであることを忘れただろう。
写真や映画でしかお目にかかれないほどに、それは美麗なる攻防ぞあった。
しかし、その一瞬の間に、聡美は恐るべき疑惑を抱いていた。
――誰か?
敵は今、自分の頭上にいる。
こんしん かかと
渾身の力でかち上げた上段受けで大きく体勢を崩すこともなく、今度は右脚の腫を降らせよ
うとしていた。
40 ーilust
Variable Geo light Novel scans
41
こちらから攻勢に転ずる隙はなかった。
(――この敵の正体は?)
かわ
前のめりに転倒していくように、聡美は殺意ある踏みおろし蹴りを盤した。
(ー―ー知っている〉
(―ーいや、違う。そんなはずは・・・・・・)
しゅんじゅん
聡美はその持ってはいけない思いに還巡した。
飛びちった破片の上を、背を丸めて回転する。
げいげき
その勢いを殺さず、立ち上がった時にはすでに迎撃の構えをとっていた。
黒い影も床に着地し、聡美を見すえている。
全身にぴったりと張りつくレオタードのような衣装に身を固め、顔にはやはり黒い仮面をつ
けている。目の部分のくぼみの奥から、恐ろしい眼光が放射されていた。
にら
睨み合いは一秒にも満たなかった。
「誰だ!?その技は、旭神館のものじゃ・・・・・・っ!?」
言い終わらぬうちに、敵は再び襲いかかってきた。
膝が微かに浮いた。
はし
次の瞬間、聡美の顔面に何かが疾る。
相手は、いつの間にか足の甲に乗せていたコンピュータの残骸を、強烈な足首のスナップで
飛ばしたのだった。
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聡美は、それを額で受けた。
それしか手がなかったのである。
敵は破片を飛ばした蹴り足を第一歩にして、そのまま突進してきた。
信じられないダッシュ力だった。
3mあった間合いは、全く無に等しかった。
聡美に足を使って移動する時間はない。
それをやったと同時に、致命的な攻撃をくらうのは確実だった。
ジャブやストレートの届く距離は、もう突破されているのだ。
(――この動き、できる人間は一人しかいない!)
ギリギリと、聡美の奥歯が?噛みあわされた。
(――だけど、何故!?)
あと数mmで、フックの届く距離だ。
長い髪の敵は、そこからさらに加速した。前傾して沈み込むカを利用している。
(――来た!)
左肩を前にして突っ込んで来た。
くらえば数mは確実に吹き飛ばされる危険な体当たりである。おそらく、受け身の体勢など
取れずに、コンクリートの壁に叩きつけられるだろう。
だが、避けるわけにはいかない。
避けきったところで必ず体勢を崩し、そこにつけこまれる
迎え打つ以外に道はなかった。
聡美はドシンと腰を落とした。
落としながら前進し、左の肘を突き出した。
フックのように振りの遠心カを用いる打ち方ではない。
握った拳が顔の前にくるように、すっto前へ出す肘打ちだ。
ふところ いりみ だんちゅう すいげつ
本来相手の懐へ入身して壇中か水月又は顎に叩き込むべきものである。
それを、相手の武器である肩に叩きつけた。
肉を決りながら、微妙にねじる。
ねじって突進のカの方向を体側に流そうと試みたのだった。
聡美の肘を支える肘と肩に、雷に打たれたよラな圧力がかかる。
敵は全く崩れなかった。猛牛並みの推進力だ。
聡美の方が突き出した肘を弾きとばされ、姿勢を崩しそうだ。
聡美は噛みしめる奥歯にさらなる力を注ぎ込む。少しぞも弱気になったり集中力が途切れた
ら、即座に吹き飛ばされる。肩の関節が外れるかもしれない。
――臨界点が来た。
敵の前脚に変化がおこる。
前足、つまりこの場合左脚の膝頭が、正面から外側へ向きはじめていた。爪先も同じだ。相
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手の方の体勢が崩れたというわけではない。
それどころか、さらに技を繰り出そうとしているのだ。
神速のダッシュ、そのスピードを利用した激烈な体当たり、その次に連なる技とは――
(来る・・・・・・)
聡美の左側から風を切る音が迫っている。
見えない。
昔と気配のみだ。
自分の出した左肘と、それを支える肩が死角になっている。
〈―右の上段廻し蹴り)
聡美がこの連続技を察知できたのは、読んだからではなかった。
こんな人間離れした難敵に奇襲で先手をとられ、即座に読み切れる人間などいない。
知っていたのである。
(…やっぱりこの技、『韋駄天足』だ!)
聡美は後方へ飛んだ。
相手の体当たりの威カを上手く利用し、自分からのけ反るょうに床を蹴った。
避けるのはこの一瞬しかあり得なかった。体当たりの推進カを余さず遠心力に転化させた右
廻し蹴り、それが空を切っているその間しか。
聡美の首のあったはずの空間を、斬撃が薙いでいく。
その蹴りは正確 に首を刈り降ろす角皮だった
つぼめ
燕のように体をひるがえらせ、聡美は素晴らしいバック転を見せた。
相手の蹴り脚が床に戻る時には、聡美も着地していた。片膝を着く形だが、それまでの劣勢
からすれば上等の立ち直りだ。
あんど
恐るべき連続技を凌いだことに対する安堵と、身の凍る現実に対する焼け焦げるょうな何か
が渦をまいていた。
ぎゆつ、ともう一度殺気が押しよせる。
殺気と同じ速度で、長い髪の女が迫っていた。
「やめて・・・・・・」
立ち上がりかける聡美の顎を、下から狙うのは右のアッパーだった。
聡美は叫んだ。
「やめてよっ、優香ああっ!!あの技を、使わせないで――」
その訴えは聞き入れられなかった。
敵の技には必殺の力がある。
ほとぱし
アッパーのさらに下方から、聡美の左手が逆る。
こけん
左の弧拳が、右アッパーに下から追いすがる。
手首を内側へ直角に曲げ、丸く堅くなった部分で打つのが弧拳である。
ゴウ・・・・・・・・・・・・・・・
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聡美の弧拳の内側、その掌からあり得ぬものが生まれた。
小さな掌の中央に、蛍の光ほどの赤い物が生じたのである。
それは突き上げる相手の拳を追って、空気を?掻くごとに膨れ上がった。
ーーー炎。
アッパーを放つため直角に曲げた敵の右肘に、炎を納めた孤拳が追いつく。
その頃には、紅蓮の妖火は華奢な掌いっばいに広がっていた。
アッパーは聡美の顎を砕く前に軌道を変えた。
弧拳がそれを追撃し、跳ね上げたのだ。
弧拳は、そのまま相手の顔へ向かった。
敵が初めて硬直した。
下からくる弧拳をスウェィバックで避けたが、聡美の手はそれに合わせて変化した。
むち かすみ
下方から手首のスナップを使って鞭のように指を放つ。俗にいラ霞打ちに近かった。
しゃくねつ
本来霞打ちとは、指の先や背で目を払うものだが、聡美のそれは灼熱の炎を加えている。
動物であれ人間であれ、生ある者全てが本能的に身を縮めざるをえない技だ。
この炎こそが、聡美が自ら封印してきた最大の能カだった。
満月の頃に限定された呪わしき異形の拳であった。
それで動きを封じたところへ、さらに右手が襲う。
左りの振りのカを殺さず回転し、聡美は右の拳で振り打ちにいった。
右の振り打ちから、さらに火の勢いを増した左手刀が首にめり込もうとする.
こま
火を吹きながらはねる独楽のようであった。
必死でよける黒づくめの女だったが、灼熱の炎にあぶられ体勢を崩した。
身をよじり、仮面の下から?岬きがもれた。
長い髪を焼く炎から、派手な火花が散る。
すさ
相手は飛び退りながら火の粉を払い、その拍子に仮面がずれて、少しだけ顔の輪郭がのぞけ
た.
「似てる・・・優香に・・・」
天井近くまで飛んだ聡美の炎が、火災報知器を作動させた。
耳を打つ警報が鳴り響く。
スプリンクラーが大量の放水を始めた。
だが、敵の動揺もわずかな間だった。
左半身に構えなおした体に力がみなぎっていく。
右手の正拳を放とうとしている。
今度は4m以上の距離がある。この敵は、その空間を超えて届く正挙を持っているというの
か‥‥・・。
(――まさか、気功弾を!?)
聡美は、それが出来る人間を一人しか知らない。
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しかし、その技は未発に終わった。
二人の間に二本の金属が突き立てられていた。
それは刃渡り20cm程もある巨大な黒い手裏剣のょうな刃物だった。
忍びの者が使ラ苦内という特種な武器である。
聡美が驚いて苦内の投げられた方を向く。
そこに、もう一人の侵入者がいた。そのスレンダーな体付きは、向かい合う強敵と同じく女
だった。やはり黒づくめだ。しかし、同じ黒でもレオタードではなく、正に忍者装束であった。
「誰!?……くの一?」
聡美は内心、死を覚悟した。
この上一人増えたら、無事ではすまない。能カを全開し、このフロアを火の海にかえても無
傷で帰れるか怪しいものだ。
しかし、驚いているのは敵も一緒だった。
苦内は聡美の足許に一本、敵の足許にも一本ある。
いずれも爪先から一寸を正確に射抜いている。冴えざえとした月光の中に立つくの一は、ど
ちらの敵でも味方でもないらしい。
「早く消えることだね。ここの警備は容赦ないよ・……・・ただの盗っとならよし、もし産業スパ
イなら、死ぬよりつらい拷問がある」
三本目の苦内を長い髪の女にかざしてくの一は言った。
逃け始めた女を,聡美は反射的に追おうとした。
だが、くの一はそれも制した。苦内の切っ先を聡美に向けたのがその意思表示だ。
「あんた誰?・・・…・・・…しかたない、あなたの方は逃がさないわよ」
いちげい
しかし、もはやその姿はなかった。逃げる女に一睨をくれて視線を戻した時には、すでに消
えさっていたのぞある。
背後とも、頭上とも、あるいは床下ともとれるいずこからか声だけが届いた。
「深追いはよしな。追いつめれば追いつめるだけ、あんたもあの女も辛いことになる。わかっ
てるはずだ。………・それを望むなら、それでもいい。フフ、フフフ…………」
スプリンクラーの音にまぎれて、その声はどんどん薄れてゆき、やがて消えた。
聡美は降り止まない水しぶきに打たれながら、声の主に二つのものをもらってしまった。
命が一つ。
もう一つは、かけがえのない友への許されぬ思いであった。
聡美はくの一の言う通り、あの女を追いつめることが怖くてならなかった。
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