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帰宅途中、聡美は道ばたの野草を摘んだ。
クローバー じい
セイヨウタンポポ、つくし、白詰草、そして、スダ椎の実が手の中にある。
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日が傾きはじめた街はずれ、小さくしゃがみ込んで花を摘む少女。
もはや東京近郊はおろか、どこの地方都市でもめったに見受けない牧歌的風景だった。
聡美は立ち上がり、紅色のイチイの実に手を伸ばした。
片側は小さな畑、反対側は雑木林になっており、そこにこの季節になるとイチイが実をむす
ぶ。イチイは寒冷地の山に行かないと見られないものだし、赤い皮の部分に毒があるので、よ
ほどの野草マニアしか採取することはない。
他にも、クコ、アオギリ、キキョウなどが自生し、秋に実を提供してくれる。
ここは、聡美の大切な収穫の場なのだった。
今回の件でしばらくは警備会社のバイトもおあずけだ。
これは大きな痛手だった。
正式に学校サイドからバイトの許可がおりたとしても、女性で学生の聡美が深夜まで働くこ
とを許すとは思えない。
大介の楽しみにしている林間学校代を捻出するためにも、厳しい倹約が必要だ。
今まででも、こうして食べられる野草を摘んで食費を浮かせてきた。
誰の世話にもならずに生きるためのささやかな知恵だった。
この街は、こういった採取活動にもってこいだ。街中をはなれるごとに緑が多くなるし、聡
美の間借りする神社付近には、昔ながらのこうした雑木林が多く残っている。
人工の公園ではまず見られない食用になる植物やキノコが豊富だった。
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神社へ向かう石段から木陰に入れば、春にはぜんまいやわらびが採れるし、中腹の小さな沼
には、濃厚な味と香りを楽しませてくるセリが生える。
だが、こんなことをしているところを人に見られたくはない。
特に大介に知られるのは避けたかった。
可愛い弟は、それらがお店で売られているものと思っている。
大介の同級生に見られるのも避けねばならなかった。気が弱く引っ込み思案で、ただでさえ
貧乏人と言われてイジメられているらしいのだ。
不幸中の幸いは、せびり取られるおこづかいを持っていないことくらいだった。
以前、こうしている現場を大介本人に見つかり、言いわけするのに苦労した覚えがある。そ
の時は、「死んでた猫を埋めてあげたの」とごまかして、一緒にお祈りをした。
聡美はそそくさと草や果実をしまい、背筋をピンとのばして立ち上がった。
「みみっちいな、おまえ」
その言葉はグサリと胸を決った。
誰もいなかったはずなのに、目の前に人がいる。
聡美の学校のすぐ近くの商業高校の制服だった。
聡美は陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとさせた。何か言い訳はないかと考えた
末に、顔見知りでないことに気付いてムツとなる。
「誰よ、関係ないでしょ!」
「野草をカバン一杯につめていばるんじゃないよ」
聡美より10数cmは高い位置から、腰に手をあててふんぞりかえるように言う。スカートが長
かった。きれいな顔立ちだが、めちゃくちゃ鼻っ柱がつよそうだ。
「あなただって今時地面スレスレのロングスカートで大きな顔しないでよ」
つんと鼻をそむけて横をすりぬける。
たち ふだ
相手は質が悪いので有名な商業高校の、たぶんその中でも札付きの女に見える。こんなのと
一緒のところを見られたら、噂に確証を与えるようなもの。
さっさと離れるつもりだった。
「おまえ、銀杏臭え…………そのパンパンにふくれたポケット、銀杏の実だな。あ、哀れだ」
通りすぎる寸前、不良娘は目頭を押さえて言った。人を怒らせるのが絶妙にうまい女だった。
聡美は固く誓った品行方正少女の仮面を、瞬間的に失念した。
ぎんなん
「あんた銀杏食べたことないの!茶碗蒸しにも入ってんじゃないの!」
怒鳴る聡美に気をよくしたのか、不良娘はもう一攻めした。
古めかしい生地でできた巾着を日の前につき出す。
「焼き米が入ってる。恵んでやろう……………」
聡美が払いのける。
死闘も辞さない聡美の怒気に、不良娘はあっさりと背を向ける。背後から無防備のものを襲
える相手かどうか、きっちり読まれていた。
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「焼き米ってあんたいつの時代の人よ!」
すいかつがん きかつがん
「おまえの常食品だろうに。気に入らないなら水渇丸か飢渇丸をあげようか」
ニヤリと笑っているのが肩ごしの横顔でわかる。
「…………」
「ったくそんなの今時"草の者"でもやんねえよ。アハハハ……」
「草の者…………。あんたはっ!」
聡美は大きく飛んで距離をとった。
不良娘はまったく動じることなく悠々とかまえている。
「気付いたの?あの学校で特待生の座を守るだけあってかしこいや。図書館の本と教科書が
唯一のゴラクってとこか、テレビ持ってねえんだろう…………」
「な、なんでそんなことまでロ」
「さっき家ん中のぞいたんだ。おっとカギはあけてないぜ。だって隙間だらけなんだもん」
しれっとしたものであった。
「あんた、あの時のくの一だね!」
水渇丸、飢渇丸は、忍びの者が常用した保存用携帯食だし、草の者とは民間人にまざって日
常をすごす下忍のことをさす。聡美は正に、図書館で借りた忍者についての本でそれらの言葉
を知っていたのである。
「ご名答だ」
しゃれ
洒落っ気たっぶりの仕草で不良娘は人さし指を立てた。
指を立てるときの動作で、制服の袖口から大きな苦内を飛び出させて見せる。
あの時のものと寸分たがわぬ寸法、そして切れ味をしめす刃の光だ。
目の前の長身に黒い忍装束を重ねてみれば、月明かりに冴える細見の女が蘇ってくる。頭部
の頭巾と口を覆う布の間にあったのは、確かにキラリと輝くこの瞳に違いない。
「あんたは敵、味方――どっち!?」
聡美は用心深く身をかまえている。
苦内を投げてくるなら、すぐさま雑木林へ逃げこまねばならない。
「やる気?」
「まあ怖い目をすんなって、今んとこアンタとあたしは敵じゃない。それどころか手を組まな
きゃならないかもな」
「?!」
出来そこないの不良女子高生になりすました女は、意味ありげに微笑してこう告げた。
「あんたのことは調べさせてもらった…………本当の貧乏暇なし娘だ。バックにはなにもない」
「貧乏は余計よ」
やぎゅう ますだちほ
「オレは柳生忍軍の末斎、名は増田千穂。どうだい……名を名乗る忍びなんざ、歴史上ざらに
ゃいねえぜ。信用しろ」
徹頭徹尾一方的で人を食った女だった。
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「端的に言うよ。八島聡美、あんたはもう巻き込まれちまってる」
「何に?」
「察しが悪いね。さっきかしこいと言ったのは取り消す」
「だったら帰ってもらってもけっこうよ。こっちは話を聞いてあげる立場よ」
いろり こうかく
今時めずらしい囲炉裏をはさんで、二人は口角泡をとばしはじめた。
文字通り風穴だらけの古いほったて小屋であった。
聡美は囲炉裏に火をつけ、その勢いを確かめるために木炭を火箸でつついていた。
「茶をいれてくれるつもりなら、茶菓子もほしい」
千穂はからかうのを楽しむようにニヤついている。
「出したでしょう!」
「ウサギのフンに見えるけど、お茶に合うのかなあ」
「イヌビワっていうのよっ、味はイチヂクみたいなもんよ!」
「犬にくわせろ」
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聡美は思わず火箸をふりあげそうになる。
「なぜ木炭にマッチなんだ?その掌から火を吹きゃ楽だろ」
「!」
「調べたって言ったろ。あんたの野草摘みのなわばりから、過去の生い立ちまで、全てだ。一
の親友、武内優香や弟の大介よりも、俺はあんたのことについて詳しいよ」
わざと遠い目をして、千穂はイヌビワを口に放り込んだ。
動きをとめた聡美の手もとで、やっと火がはぜ、木炭の一つをコロリと転がした。
「隠すな、館長さんや校長と同じくらいアンタの理解者のつもりだ。わかるんだ…………ガキ
の頃からへンな力持っちまって、それを隠さなきゃならなかったのは同じだからね。一流の忍
びってのは、五体の感覚から殺しの技まで、他人から見たら超能力者だ。ガキのころはそれが
わかんねえから気味悪がられたりしたもんさ…………」
「あたしのは仕込まれて持ったものじゃない。欲しくも、使いたくもない」
聡美の声は低く冷たかった。
「そうか…………だが、その力は何度もあんたの身を救った。先日も、そして今から十一年前、
火に包まれた車ん中からあんたと弟を生き延びさせたのも、火を操るその力…………」
「やめて!やめないとぶっ飛ばすわよ!」
聡美は立ち上がり、凄い形相になっていた。目の前を、火の中でもがく父の背中と、フロン
トガラスに首まで突っ込み、すでに動かない母の体がよぎる。
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ガスと炎の臭い、肉を焦がす黒煙もよみがえる。
「すまねえな。ーだけど、この先その力が必要になる。空手技だけじゃ、きっと対抗できな
いよ。敵が俺みたいに名乗ってから襲うわけじゃない」
「あたしが…………いったい何を?ただのバイトの警備員じゃない。犯人の顔も見てないし、
犯人が何を探ってたかも何も知らない」
「おまえ、大事なことを一つ隠してる。警察にも言ってないだろう」
「それは……」
「おまえはあの女と互角に渡り合い、傷を負わせて撃退した…………そして、犯人について大
方の目星をつけている。違うか?」
「違う!そんなものわかるわけない!」
千穂は眉をしかめ、だだっ子でも見る風な表情をつくった。
「おいおい。泣きそうなツラすんなっての。おまえ幾つだ?ふう…………」
千穂は、ぐいっと身を乗り出して言った。
「あたしもそこにいた。やつの技を見た。あんな空手使えるやつは世界で一人だ。武内優香…………」
あんたが疑ってるとおりだよ」
「―ーー」
聡美には返す言葉がなかった。
ついさきほど道場で殺し、消し去ったはずの思いを、あっという間に取り戻させられた. い
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や、押し込めただけで、優香を潔白と思いこむだけの理由を本当は見つけてはいなかった。
館長の眼差しの前で、あさましく友を疑る自分が情けなくなったにすぎないのだ。
「白分が嫌いになったか?」
「好きだったことなんて一度もないわよ」
「嫌うのは別に悪いこっちゃねえぜ。但し、敵を嫌え。…………自分を裏切る人間なんざ腹の
底から憎むべきさ。そんなのはごまんといるし、ごまんに近いくらい見てきた…………」
聡美は大粒の涙をこらえるために、血が出るほど唇を噛んでいた。
「ウルサイ! 同い年で悟ったふうな口きかないで! 優香のことはあたしが一番知ってるん
だ!」
聡美の雄叫びもどこ吹く風。千穂はよく聞こえる独り言をつぶやいた。
「いいや、何も知らんね。それにあのぶちかましからの刈り込むタイプのハイキック…………
『韋駄天足』っていったっけ…………あのコンビネーションは、他人が偶然やるにしちゃ確率が
低すぎる。間合いの取り方、呼吸、力、技、すべてのネタが優香をさしている」
忍術の訓練の中に、地面に紙を敷き、そこに水をまいて、その上を歩いたり走ったりするも
のがある。これをマスターすれば音を消して歩けるようになるし、超人的な身軽さを養えるの
だ。
千穂はその訓練をやり遂げたが、その彼女にして尚、『韋駄天足』は想像を絶する技だった。
あの神速の踏み込みから、そのスピードを全て廻し蹴りに転化させる重心移動は、100m
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ダッシュの途中に野球のフルスイングを行うようなものだ。
むろんダッシュ力では世界新記録、スイングでは大リーグのピッチャーからホームランを奪
わねばなるまい。『韋駄天足』とはそれほど常識外れのものであった。
「あんた、何でそれを」
「優香は、俺の初黒星の相手だ。VGで負けてから何度も道場をさぐりにいった。あの技は、
VGで使わなかったし、たぶん館長とアンタ相手にしか使えない危ない技なんだろうな……」
「VGじゃ、使ってないの……そうなの」
そうなれば、誰かに盗まれることもなかったことになる。
聡美は、決定的な証拠をつきつけられた犯罪者の気分を味わった。
「おまえ、優香の過去について何か知ってるか?」
「ううん……小学生までは岡山の山奥でお爺さんと二人暮らしだったってことしか。でも、優
香のことだから、どこにいたってみんなに可愛がられて………」
「その爺さん、気道とやらの達人で、優香に気吼弾を教えた人らしいが、寄る年波には勝てな
いらしい……しばらく前に大学病院で精密検査を受けてる。何の病気かまだ調べがつかないけ
ど、手術をひかえてるらしいぜ」
「?」
「金が必要ってことさ」
聡美はバットで殴られたように感じた。千穂の言おうとすることが、あらかじめわかってし
まったからだ。
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「産業スパイは金になる――」
「何を言いだすの!?」
「本当のことだ。本職のオレが言ってるんだよ。実際、能力があって金に困ったらこれはオイ
シイ商売さ」
「……自分が日陰者だからって、あの子は同じ所に引きずり落とせるような人間じゃない」
聡美は自分に言いきかせるように声を絞り出した。
千穂もそれは否定しなかった。うって変わって、しんみりとうなずき、声のトーンを落とす。
「そうだな。優香はイイやつだ。日陰者だからこそ、よくわかるよ。自分と同じようなやつを
見ぬく力についちゃあ、心理学者にも負けねえつもりだが……」
「……」
千穂も聡美も自分を偽る方法を誰より良く知っていた。だから他人のべールの裏を見抜く力
を身に備えてしまったのである。そして、他人や自分の嫌な部分を、どこか醒めた日で眺める
癖がついていた。
「そんな俺から見ても、優香はイイやつだ。世間的には友情ってのか……不覚にもそんなもの
を感じちまってるんだ。キリシタン風に言えば聖母マリア、おフランス風に言やあオルレアン
の少女――そういうのって、優香みたいだったかも、なんてよ……」
「うん……あたしも同じこと思ったことある」
だが千穂はまた一変した。
懐の苦内のように黒く鋭い光が両目に宿る。
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おとぎぱなし
「ーーでも、そんな人間は、いるはずはないんだ。この世に御伽話なんか存在しないんだ。そ
んなのがいるとしたら、サイコパスか多重人格者か……本物の大バカさ」
「……」
「やつが、人を憎んだことがあると思うか?」
「……」
「答えはわかってる。怒れるが、憎まない――そういうやつだと俺も思う。だから……だから、
今となっては全てが嘘くせえ。そんなのは人間じゃないぜ」
「……」
「今の話、どう整理してもかまわない。だけど、これだけは言っておく。この数ケ月、長い髪
の女空手使いがこっちの業界で荒稼ぎしてる。そして、金のためなら人間はどんな嘘もつくし、
いくらでも変われるってことだ」
聡美は思った。
もし、自分の命より大切な弟が難病にかかり、大金が必要になったとしたら、白分はどうす
るだろう。
(――稼ぐ。たぶん、何をしても。自分の人格をかなぐり捨ててでも……)
乱れて定まらぬ思いの果て、聡美はそこに辿り着くしかなかった。
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「学校での事件だって、もしかしたら優香が一枚からんでるんじゃないのか?」
「でも、あれはスパイの女と会う前のことだし……」
「ああ……でも用心にこしたことはない。あの女はあの時、確かに本気だった。ただのバイト
警備員を相手に殺る気だった。どうもおかしい……」
千穂はそう言い残して去った。
聡美はその夜、ついに一睡もできなかった。
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増田千穂と会った翌日―ー謹慎中にも関わらず聡美は登校した。
放課後、優香がボクシング部を訪れる時間を見計らってのことだ。
優香のパンチは、どの男子部員のものより遥かに強烈だった。
見たところフェザー級とバンタム級の男たちが二人がかりでサンドバッグを押さえるのだが、
優香の拳が打ち込まれるたびに大きく揺れていた。
不慣れなボクシンググラブをつけているせいか、聡美の目には少しぎこちなく見えるが、し
きょうがく
ょせん高校生レべルの部員たちには驚愕の破壊力にちがいない。
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左ジャブ二発、右ストレート――左にサイドステップし、ダッキングを一つまぜて突きあげ
るかんじの左ボディフック―ーさらに、その左でテンプルへのフックを連続し――右のフック
でフィニッシュ。
二人の男子は左右に振られて尻もちをついた。
いつもの素手か、道場でつかっている薄い拳サポーターであれば、使い古しのサンドバッグ
の中身が吹き出しそうなパンチだった。
部員の注目をかっさらう優香が、窓の外の聡美を見つけて駆けよってきた。
安普請のサッシ枠がガタつきながら開け放たれ、独特の熱気が押しよせる。優香だけではな
くボクシング部自体も試合が近いらしく、減量対策のため加湿機とヒーターでサウナ状態にな
っていた。ワセリンと松ヤニの匂いが鼻をつく。
「よく来たね、聡美! わかった、ついにやる気になったか! とにかく今この部屋冷やせな
いから入りなよ」
ひまわりのような笑顔で、聡美の言葉を待たずに窓を閉じる。
「話があるの。ちょっと外に……」
練習が終わるまで待つんだった――と今さらながら後悔した。
優香は締めたガラスの向こうで大はしゃぎを始めている。つられた部員たちが歓声をあげた
り口笛をならしたり、ガッツポーズをとったりするのが見える。
優香が何を言ったか大体は察しがつく。
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ついでに、自分が誰かわかった時の反応も予想がついていた。
そして、それは的中した。
中に入ったとたん、むせかえる熱気が別のものに変わった。一人一人の気持ちの変化が具現
化Lたとでもいうかのように、聡美の体感温度は確実に数度下っていた。
他人の視線や心というものを、彼女は実際こんな風に感ずるのだ。それらがどれほど彼女の
人生を左右してきたのか、聡美自身が最も身に染みるのはこんな時だった。
入口近くにいた人間から、どんどん態度が変わっていく。
大所帯ゆえに一度に聡美の姿を見ることができず、奥の方ではいまだに盛り上がっている。
「可愛いか?なっ、可愛いんだろ?」
「女子ボクシング部発足だ! 武内さんのお墨つきってんなら全国制覇だぜ!」
「おいおい、女子って全国大会あったか!? 地区にもあんのかよ」
「いいって、とりあえず毎日はりが出るって!」
そう言いながら人をかきわけて前へ出てきた連中が、あっという間に冷めていく。
「やあ、優香君とタメをはるくらい強いんだってね。事情があって名は明かせないって言われ
てたんだが、君かあ………小柄だね。でも可愛さは同等かナ、よろしく!」
と、最後に出てきたのが主将らしい。
せいかん
引き締まった精悍な顔で、握手を求めて手を伸ばす。
しかし、すぐその後に、同じ手を静止させた。
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横から別の部員が素早く耳打ちをしたのである。聡美が今話題の人物その人である、という
内容だろう。出した手を引っこめるのも決まりが悪く、どうしたものかと中ぶらりんのままだ。
優香はさらにその後ろから遅れて出てきた。
「ね、入部する気になったんでしょ! もう聡美が強いのもバレちゃってるし、入るなら打突
系の格技はここしかないんだから! 聡美が入るならボクも学校で正式入部するよ! 正規の
大会でボクシング対決だね′・」
全くもって空気を読むことを